混迷する中東情勢


<ロシア停戦合意オペレーション>
      ー2016年2月23日ー
                       
 シリア停戦の為のミッションセンターがシリア:ラタキア近郊のロシアKhmeimin空軍基地に設立された。 
ロシア国防相のスポークスマン;イゴール・コナシェンコフ少将が23日(火曜日)に出した声明は以下の通り。
                            
「シリアでの紛争当事国を調整するための調整センターがラタキア近くのーKhmeimin空軍基地ーでその作業を開始した」。「これは停戦を監視するための共同オペレーションで必要とされる、モスクワとワシントンとのホットラインを構成する。」
「ロシアがシリア国内での反テロ作戦のために使用してきた空軍基地に設けられたコーディネーションセンターは、停戦へ向けての様々な側面での遵守を監視する。」
「シリア政府側と反政府側とのコンタクトの確立を支援する計画である。」
「停戦を監視し、和平交渉を再開することを決定した反政府組織は、共通の電話番号を経由してセンターに24時間何時でも連絡することができるようになる。」
センターはまた、人道援助を提供する場合でも役立つだろう。」
しかし、これは国連安全保障理事会によって指定されたイスラム国家とアル-ヌスラ戦線だけでなく、他のテロリストグループも除外する。」
「シリア政府は停戦協定の条項を受け入れ、停戦計画に含まれるであろうグループや地域を決定するために、ロシアと調整することを約束した。」

 


<2016年2月22日「停戦協定が、流血と破壊と死を終わらせる実際のステップであり、テロに対する行動の終焉を可能とする」、とプーチン大統領が表明>
                                   
 「私はアメリカ側と合意した共同の停戦条件が、根本的にシリアの危機的状況を打開することができると確信している」、とプーチン大統領はテレビ放送で語り、クレムリンのウェブサイトにも掲載された。
                                    
 プーチン大統領は声明の中で「電話でバラク・オバマ米大統領と停戦について議論した」、「モスクワは、アサド政権に停戦合意を尊重しその実施を確実にするよう、必要なことは全面的にサポートするだろう」と付け加え、「我々は、有志連合同盟国と彼らがサポートするグループと同じことを行うために、米国を頼りにしている」とコメントした。
プーチン大統領は又、「米国とロシアは、通信のダイレクトラインを結び、必要に応じてワーキンググループが情報交換出来るラインを作り、停戦への意志の尊重を確保するための効果的な制御機構を構成する準備も出来ている」と表明。
「今回が流血と暴力との惨事に終止符を打つための最後のチャンスだろう」「ロシアとアメリカは、共に戦闘が継続されている地域を定義する。他には何の軍事作戦も無い」 とも付け加えた。
                                                                         
 今後は純然たる政治オペレーションとして国連監視の下でジュネーブ会議が継続されることになるが、マダマダ先は長いと思われる。
フランス24: http://goo.gl/gipPbU
 

 


<米国とロシアはシリア政府と野党グループ間の停戦に関する協定案の合意に達した>  2016年2月22日
 2月22日(月曜日)の協定案は「2月宇26日(金曜日)の正午までに合意書にサインアップし、翌日深夜より敵対行為を停止する事」をすべての当事国が了承する、としている。
                        
 アルジャジーラの外交エディター:ジェームズベイはニューヨークからの報告として、「高官レベル間での情報として、”タスクフォースのUN共同議長とロシア・米国との間で合意に達していることが確認された」と述べました。
                                                                              
「すべての紛争当事国がサインアップして合意を確認する必要がありますが、これが実際に行動に示される必要があり、その為の最終確認への方法について、未だ猶予が残されている」ともベイは報告していました。
「発表は近い将来に米国国務長官のジョン・ケリーからなされると理解しています。」
米国務省が発表した声明は、「契約遵守の事項が、ロシア軍や米国主導の有志連合国によって反故にされる事のないように、その手順を確実にするためにモスクワでも動いていた」「米国とロシアが一緒にシリアでの暴力と流血の即時停戦をサポートするために、すべてのシリアの当事者地域諸国や他のオブザーバーをも参加して確認する」「アサド政府軍と反シリア軍に停戦の道を開くものである」と述べています。
 この合意契約は、国連安全保障理事会でテロリストグループとしてリストされているアイシス(ISISorISIL)グループとアル=ヌスラ戦線は除外されています。

 

[ロイター/ Bassam Khabieh] 記事掲載:アルジャジーラ:http://goo.gl/lpN0Vn


-トルコはシリアオペレーションにすべての権利を持つ-
                        <2016年2月21日>
 トルコ:エルドアン大統領の主張=「シリアの紛争に関して、今後は他国からの干渉は一切不要である。シリア混乱への外部干渉はトルコ主権への侵害であり、解決はトルコ一国で行う。」「シリアのオペレーションに対してはトルコが全権を担っている」。という声明をハリエット紙(トルコの新聞社)のサイトに出した。
 確かにこれも一計ではある。「ムスリム国同士の諍いは当事国に任せておけばいい」という考え方もある。しかしこれはシリア国内だけでなく、多くのシリア難民を受け入れているヨーロッパの国々(ドイツ、デンマーク、スエーデン、フランス、ギリシャ、イタリア、イギリス等々)の国に対する配慮に欠ける。更に重要なことは、肝心のシリア国内から逃げ出すことも出来ない1000万人ちかいシリア市民への人権に対する配慮が一切欠けている、ということだ。
 もし、「当事者国だけに任せろ」と言うならば、まずシリア国内難民とレバノンやヨルダンに逃れている多くの難民(約1400万人)の人々を、安住の地に収めてからである。その後は当事者国同士(トルコ、シリア、サウジアラビア、クエート、ヨルダン、イラク、イラン、そしてクルドの人々)で、好きなだけ戦争すればいい。結果は見るも無残なことになることは目に見えているが・・。
エルドアンとは、実に思考能力に欠けた、未来をスペキュレーション出来ない、無能な人物である。
 21世紀の今日、一つの国の意志だけが罷り通るような世界ではない。一国の偏狭な思考だけで動ける時代ではない、という事すら判らない国家元首である。まさに自国民28万人を自らの手で死に至らしめ、自分の国を自国の軍隊で破壊し続けるシリア・アサドと同じ程度の、見下げはてた人物である。
                                                                                                                                                       
 クルド人を目の敵として、トルコ国内に住むクルド人だけではなく、今度はイラク国内のクルド自治区へ、イラクの了承無しに戦車25台と150人の兵士を送り込んだ。エルドアンの頭の中にはシリアの事より、クルド人を壊滅させることの方が重要なのだ。クルド人部隊を認めるという事の重大さがまるで判っていない。アメリカが支援しているクルド人部隊(ペシュメルガ)と、PKKの下部組織の一つであるYPGとは、シリア・アサド大統領を更迭し、中東全体を安定へと導く切り札的存在であり、今回のアンカラ攻撃には彼らは一切関与していない。
                                                                                                                                                     
 ・アンカラテロを実行したのは同じPKKの下部組織ではあるが、クルディスタン自由ファルコン(TAK)であり、クルド自治区の主たる住人ではない。TAKはロシアと繋がるクルド人組織であり、クルド人の安寧よりも反アメリカを求めて戦っている組織である。PKKの下部組織は実に70を超える組織があり、夫々が様々な思惑で活動している。(下部)
当然クルド人同志が対決する状況が生じてくるが、それらを押さえて統率出来ていた人物がアブドゥッラー・オジャランだった。
                                                                          
・トルコが混迷に陥ることを最も望んでいるのは第三者の風を装っているロシアであることは誰にでも判る。エルドアンがやけになって偏執狂的な思考を強く持てば持つほどほくそ笑むのがプーチンであることを、トルコだけではなく国際社会も知らなければならない。このまま中途半端な状態が続けば続くほどプーチンの思う壺なのである。国際社会がトルコを放置すれば、トルコという国自体がロシアによって崩壊させれれてしまう可能性もある。それがトルコ一国に任せた場合の結末となる事を。
現状を冷静に分析と解明ができ、確かな政治的視野と中東全体を安寧へと導く事ができる意志と能力を持った指導者が、トルコに現れることを願うばかりである。
 
  <クルド人民族組織>

 


<益々混迷を深めるシリア情勢。シリア停戦とシリア市民への救援は再び闇の中へ〉        02/19/2016
トルコの自爆テロ:トルコはアンカラの中心街で少なくとも28人が死亡したと発表。そのわずか数時間後には、「この自爆テロはクルド組織PKK-あるいはPKKの別軍事組織であるYPD(クルド人民防衛軍)が行ったものだ」と断定し、10数人のメンバーを逮捕したと公表しました。
しかしYPG側はこれを全面否定しています。
「爆発物を積んだ車が軍用バスの前で自爆」、彼らはアンカラのトルコ軍本部や議会や政府の建物近くで、交通信号で待っていた模様。
#:アフメト・ダウトオール首相は、「今回の自爆攻撃はYPGがテロ組織だったという明確な証拠だ」と発表。
「昨日の攻撃は直接トルコをターゲットにしたもので、犯行はテロ組織PKKそのものか、あるいはその連携組織であるYPGである。我々は報復として、すべての必要な措置を執る」、とダウトオール首相はテレビ放映で語った。
又、シリアにおけるYPGとの共同オペレーションを終了し、テロリスト集団として認識するよう、米国およびその他の同盟国に呼びかけた。
                                                                         
⁂YPGは、18日に発表した声明で「我々は今回のアンカラでの攻撃に対して一切関与はしていない」と声明。
YPGのスポークスマン:ロジャバは「シリアの国境におけるトルコ軍のすべての挑発行為や攻撃には一切揺るがず、反応もしていない。歴史的にみても適切さと責任ある態度で行動している。我々は一切の軍事攻撃を行っていない。その事実を知っているのは、他でもないトルコ軍とAKP(現在のトルコの政権を掌握する公正発展党)自身である」と述べています。
  
  出典:アルジャジーラ 関連サイト: http://goo.gl/6brSDK
                                                                          
  アルジャジーラサイト掲載動画(この動画はお使いのブラウザにて再生されます):http://bcove.me/z67gb9r8
(a)中東問題の専門家のコメント:「今回の様なテロを実行したのはクルド関係者である筈がない。これはISISがトルコとクルドの確執を利用し、トルコとクルドとの分裂を促し、ISIS攻撃を弱体化させる高度で戦略性のある攻撃でしかない。こんな戦術に易々と乗せられるトルコのエルドアンとダウトオールは今少し冷静に判断出来る能力を持たなければならない。トルコ民衆に媚びる余り、あらゆることをクルド人と結び付けている両首脳は、歴史に恥を晒すことになるだろう。」
「更に勘繰れば、ロシア・プーチンがシリア出身のクルド人の若者を、クルドのテロリストとして仕立て上げて、テロを実行させたとも考えられる」「今回のテロで誰が最も利益を得るかーと考えればその指し示す方向は、シリア・アサド政権とロシアに直線的に行きつく、という事を世界は知る必要がある」とも述べています。(本人の希望により名前は伏せています)
                                                                                                                                                                                            
(b)2016年2月19日(GMT):日本時間2016年2月20日2時
TAKとして知られているクルディスタン自由ファルコンズthe Kurdistan Freedom Falcons=クルド人の自由な隼)がウエブサイトに記載した文章では、「今回のトルコ・アンカラでの攻撃は南西トルコ国境でのクルド人組織のシリア反政府勢力に対するトルコ軍事作戦への報復である」と記載されている。
トルコベースのこのグループは、クルド労働者党(PKK)の分派とみなされ、過去にいくつかの暴力的な攻撃を行ってきた。
                                                                  
 *TAKはまた「トルコ国内の代表的な観光エリアを攻撃の目標とする」と記載し、トルコを訪れる外国人観光客に警告しています。
                             
*「我々の今回の行動は、ジズレの町(トルコ南西国境近くの町)へのトルコ軍の大規模な武装攻撃によって、無防備な市民50人以上が死傷した民間人への虐殺に対するの仇を討つために行った」と述べ、今なお人権団体やジャーナリスト・オブザーバー等が、夜間外出禁止令下に置かれているジズレの町について深刻な懸念を表明している。
                                                                         
⁂上記(a)と(b)は全く矛盾した正反対の結果だったと思えます。しかしこれらをより深く検証してみるとその違いが意図的なものであったことが判ってきます。中東の専門家という人物は、私が30年来交流を重ねて来たイギリス人で、未だ中東からアフガン、そしてカンボジアやヴェトナムなどを絶えず訪れています。そんな彼の見えなかった事実が、現在ロシアにいる別の友人から齎されました。
 ロシアの友は「今回のTAKのトルコ攻撃は当然のことだ」と教えてくれました。「TAKは現在ウクライナ東部のドネツクでウクライナ攻撃に側面からロシア軍を支援しているセクトだよ」と言い、「彼らが立脚しているシチュエーションはまず(反米)ありき、であり、次にクルド人、そしてムスリムと続く系譜を持っている」といって彼らのサイトを教えてくれました。
 そこには今回の犯行声明(上記)があり、「プーチンはオバマを超えて、世界を指導して行かなければならない」という記述などに溢れていました。
 つまりは、今回のアンカラ自爆テロはステートメントの内容だけではなく、「中東からヨーロッパ=EU、そしてウクライナからロシアへと至るロシア戦略の、大きなムーブメントの一部だった」、という俯瞰図が見えて来たのです。検証結果は後ほど公開させて戴きます。          TETSU SASAOKA    02/20/2016          
 
                                                 

 

                 ー混迷するシリア情勢ー        2016年2月16日

*トルコは「クルド主導の部隊が国境沿いの主要分野を押さえることはさせない」と主張し、連日にわたりシリア北部のアレッポ・アザーズのクルド部隊(クルド人民防衛軍=YPG)を砲撃。
*同時に「ロシア空軍にサポートされたシリア・アサド政権軍は病院2か所と学校などを爆撃。少なくとも7人が死亡、数十 人が障害を負った。」と国境なき医師団(フランスベース=MSF)が報告。
・トルコの攻撃は、西側連合友好国からの要請にもかかわらず、クルド人民防衛軍(YPG)に対し「挑発的な砲撃」を継続し、「今後の中東における平和と安全保障に対する脅威を増加させる」とロシア側からも激しい批判を受けました。
・土曜日に始まったクロスボーダーのトルコの砲撃は、停戦を開始するわずか数日前に、シリア北部のアレッポ周辺をますます複雑な状況に追い込んでいます。
・関係国の外交官は、シリアの5年間の紛争の終結を決定するために、まず前提として1週間以内に「敵対行為の全面停戦」を、先週の金曜日(2月12日)ミュンヘン会談で合意しました。
・トルコは最近のYPGへの攻撃は、「進歩主義クルド労働者党(PKK)のトルコの国家に対する数十年にわたる反乱を引き起こしてきた非合法運動と同列にある」と弁明し、アンカラの深い懸念を表明しています。
・「トルコの砲撃は土曜、日曜、月曜と連日アレッポ周辺の数か所で砲弾の着弾を確認した」とシリア人権監視団(英国ベースの監視グループ)に確認されています。
・トルコは「アレッポやアザーズの病院への空爆はロシア軍によるもの」とコメント。
・ロシアは例によって「ロシア軍機はこの周辺には入っていない。これはアメリカ軍機によるものだ」と主張。
・トルコはクルド人がシリア北部国境を越え、トルコとシリアの連続する国境地帯全域にクルドの領土を拡大することがでると懸念。
・モスクワは、「我々の軍事介入は、他の"テロリスト"をターゲットにしていると」言うが、シリア人権活動家達は「ロシアの攻撃が不相応に多くシリアの民間人の死傷者を出している」と非難しています。
・ロシアの空爆は、アサド政府軍が北部アレッポ周辺地域への進出を可能にし、事実上反体制派を排除することが出来たとレポート。
 
*「これらの、下劣で残酷で野蛮な行為が民間人や兵士、女性や子供や高齢者を見境なく殺戮し、2015年9月30日以来、8000回近くの出撃によって数万人の死傷者が出ている。」とダヴトグルは議会で語りました。
 
*モスクワはその間、トルコのシリア領土への攻撃はシリアに対する「挑発的行為」であると非難し、国連安全保障理事会に提訴する用意があると述べています。
 
*米国務省のスポークスマンは、「さらなるエスカレーションを避けるよう、トルコとロシアに懸念を表明。
「ロシアとトルコの直接対話が重要であり、更なるエスカレーションを防止するための措置を講じる必要がある。」とAFP通信に語りました。 (フランス24:記事より)

 

 
*プライマリーイッシューが何であるか、人命尊重は何処にあるか、軍事力が玩具のように互いに見境のないところで平然と使用されているのは何故なのか。
 連日愚にもつかない言行が公表され続ける現在のシリア情勢ですが、我々他国の市民から見れば、なんとも表現しようのないシリア関係国の馬鹿げたやり取りの繰り返し、に不快感ばかりがつのります。
                                                                          
⁂最大の原因は、自国の権益や利益のみを追求するロシア・プーチンと、ロシアという虎の威を借りて急激に復活し再び自国民を殺害・追放・飢餓へと追いやるシリア・アサドにあります。彼ら2人は市民の命のことなど全く意に介していません。市民が何処へ行こうと、彷徨しようと、将又野垂れ死にしようと、自分たちの政権の維持と国家的利益という目的の前には全くどうでもいいことなのだと考えているとしか思えません。
                                                                          
 *プーチンはジョージア(グルジア)でもそうでしたし、クリミア、そして今ウクライナ東部でも同じことをしています。軍事力によって他国を攻撃し、支配し、ロシアの権益を強化加増して行く事が最優先課題であり、その為には手段を問わない。アイシス(ISIS)の出現と11月のパリ同時多発テロは、プーチンに最大のチャンスを与えてしまいました。私は当初から「アイシスの出現の後押しをしているのはプーチンではないか」という思いを強めておりました。今現在行われているロシアの空爆も、80%はシリア北西部(シリア自由軍とクルド正規軍が手中に収めている地域=アレッポ周辺)に集中しており、20%程度がアイシスが占拠する北東部へ向けられているだけです。
 そしてパリ11・13以降のプーチンの軌跡を追ってみると、明確にその目的と実現へのプロローグが見えて来ます。オランド仏大統領は11月24日にアメリカオバマ大統領を訪問、そして翌々日の26日ロシア・プーチンを訪れています。
 米・仏での合意は、「アイシスを武力攻撃の標的として、これを壊滅させる」「シリア・アサドを更迭し、シリアに民主的な政府を創る」ということでした。この会談は増加し続けるシリア難民と彼らに紛れてヨーロッパへ密かに入って来るアイシスの活動家達を阻止する、という大きな課題も内包されていました。
 しかしその翌々日に持たれたプーチンとの会談では、アイシスへの攻撃に関しては合意されたものの、アサド更迭に関してプーチンは同意しませんでした。
 オランド大統領はパリ事件のことで頭が一杯で、プーチンの真意に気付くことが出来なかった、というのが本音といったところでしょう。プーチンの本音は、「これでシリアに大手を振って軍事介入が出来る」「アサドを支援し、これまで中々進出出来なかった地中海への足掛かりをシリアに確保出来る」といったところでしょう。そして更に中東に大きな足掛かりと軍事基地を建設し、サウジアラビアやクエート、UAEといった中東の雄を牽制し、産油国としての連携を深めて、世界の化石燃料供給を支配していく、という遠望も同時に併せ持っていると思えます。
                                                                          
 ・プーチンは中学生時代からロシアKGBに憧れ、自ら本部を訪れ、そこでサジェスチョンされた方向性を維持し続けて大学卒業と同時にKGBに就職した、という一貫性を持って人生を築いて行ける強靭な意志を併せ持つ人物です。エリツィンによってモスクワに招かれ政治家への道を歩みだすと同時に、「大統領になる」という強い信念を持ち、エリツィンが失脚すると同時に大統領に就きました。(この時のエリツィンの失念した姿は誠に不自然な様子でしたが、何らかの薬を服用さされていたと思われます;誰が一服盛ったのか、は、言わずもがな、でしょう)
 ロシアの法律で規定されている8年(2期)の大統領を終え、一旦メドベージェフにその職を務めさせた後、再び現職に復帰しています。彼の野望は尽きることがなく、その心の内にはマダマダ煮えたぎったものがマグマのように燃え滾っていると見えます。
 シリアという場所が今正に彼のこれからの野望実現の第一歩だと私は思っています。現在の世界の指導者の中で、彼に対抗できる人物は皆無だと思えます。従来はロシアの野望を抑え込むことが出来たのは歴代のアメリカ大統領でした。フルシチョフに対するケネディ、ゴルバチョフに対するレーガン、そして第一期目のプーチンに対するジョージ・W・ブッシュ。しかしオバマは人間としてはプーチンよりは数段優れていますが、政治家としては心優しすぎる、と言えるでしょう。これから11月までアメリカの大統領選挙が行われますが、プーチンに対抗しうる候補者といえばヒラリー・クリントン女史をおいて他には見当たりません。人物像とすれば同じ民主党のサンダース氏の方が勝りますが、対プーチンを視野に入れて国際協調を民主的に推し進めて行くには、ヒラリー女史の方が強力な指導力を持っていると言えます。彼女がプーチンにするどく抗弁し噛みついていく姿が目に見えるようです。
                                                                          
 *さて本来はアイシス掃討が何よりのミッションだった筈のシリア空爆が、いつの間にかトルコのクルドとの確執、ロシア軍機撃墜による作戦停滞、米軍のイニシャティブの喪失、NATOの不完全な対応、そしてイランやイスラエルなどの諸問題も絡んで、混迷が深まるばかりとなってしまいました。サウジアラビアのジュベイル外相が言っているように、自国を破壊し、自国民を自ずから殺害し続けるアサドを放置しておくことは、人類の未来への裏切りであると認識しなければなりません。
しかし停戦まであと2日、その実現性はとても弱まったと思えます。それでなくとも嘘で塗り固めたアサド政権とロシア。彼らの強欲な企みはそう易々とは阻止できるような状況ではなくなったと言えるでしょう。
                                                                          
*決して叶わない目論見ですが、私の望みとするところは、まずトルコとクルドの確執を収め、収監中のオジャランを開放し、彼を仲介者としてトルコとクルドの和解を促し、連合体を構成し、それを基に米英友好国とサウジやカタールが連携して地上軍をシリアに投入する。そして、まずアサドとロシアを後退させ、アサドをダマスカスに封じ込めれば、ロシアはやむなく遠方からアイシス攻撃に協力せざるを得ない状況になるでしょう。アイシスを撃滅させることはそれほど難しいことではないでしょう。すでにアイシスの主力はリビアに転出しているかも知れません。
*シリアのアサドを捕縛し、国際裁判所での公開法廷で念入りに裁く必要があります。多くのシリア市民が帰国し再建の道筋をつけなければなりませんし、公平な選挙による指導者選びは市民が中心となって実施出来るように国際社会は見守らなければなりません。
 国外に出ているシリア難民は約1000万人いると推定できます。其のうちの60%~70%が帰国するのではないかと思えます。シリアは元には戻りませんが、約2500万人(2012年迄は3000万人)によるシリア再建がなされる土壌が出来上がることになります。そしてこれまでただ1度、半年間しか国を持つことが出来なかったクルドの人々に、イラク北部の現在のクルド自治区に国家を建設させる。トルコ国内に居住するクルド人達もこの地に移住させる、という筋書きが最も平和な中東にすることだと考えています。
 ・さすればイスラエルとパレスティナにも良好な結果が齎せられる。
中東全体だけでなくムスリム同志の対決(スンニー派80%とシーア派20%)も和らぐだろうし、アフリカにおける過激派組織の一掃も徐々に実現されていくだろう。
シリア問題の優れた解決は国際社会全体で取り組むべき最重要課題であり、日本も精力的な対外外交を展開してくべき時に来ている。                                      2016年2月16日   曽根悟朗


 ーNHKBS  Wisdom(03/23/2013)放映ー
「アルジェリア人質事件」世界は新たなテロに対してどう立ち上がるのか」 投稿文 曽根悟朗
 この事は1917年のバルフォア宣言から1947年の国連総会でパレスティナの分割が決められるまでの経緯を踏まえ、1948年5月14日イスラエルの建国がなされるまでの事をすべて把握した上で考えて行くべき問題であろう。当初アラブ側に割譲された所には元はパレスティナ人が約75万人、ユダヤ人は1万人程度だった。一方ユダヤ人に割譲された地域はユダヤ人が約50万人、アラブ人が約43万人で、その面積はアラブ側が94%・ユダヤ側は6%程度であった。それが分割された後、ユダヤ人地域が60%近くにまで拡大されて行ったのである。イスラエル軍の戦車を伴った軍隊が、日々アラブ人たちの村を急襲し、即座に、着の身着のままで追い出し、アラブ人達はその日以来2度と戻る事は出来なかった。この様な無慈悲な行動に対し、ムスリム(アラブ人達は殆んどがイスラム教徒だった)の人達は抵抗すべき手段を何も持たなかった。出来た事は石の礫で戦車に投石する事位でしかなかった。これはインティファーダと云われたが、ムスリムの人々の怒りのウネリの原点はここにある。ある日突然にこの様な目に我々が会ったとしたら、どの様に感じるだろうか。先祖代々受け継いできた家や田畑を、一瞬にして暴力を持って取り上げられてしまったのである。住いも何もかも無くし、荒地でのテント暮らしをしいられた。この時の怒りが、まずは反ユダヤとなり、そしてイスラエルを応援するアメリカや西欧各国へと広がっていった。第一次から第三次に至る中東戦争はパレスティナの地には何の変化も齎さず、ヨルダン川西岸地区とガザ地区に分割されてしまったパレスティナは、国家として今漸く国連で認められようとしているに過ぎない。何処へも持って行きようのない煮えたぎる怒りが反イスラエル・反米へと向かっていったのは当然の成り行きだった。欧米を始めとした国々は何の手も貸そうとしなかったのである。「侵略者には武器を持って戦え・・これは聖戦(ジハード)である」とクルアーンは教える。ムスリム人の怒りは沸々と湧き上り、戦いの炎がムスリム社会全体に燃え広がり、中東からイスラーム社会全体へと組織の環が広がっていった。しかしその群雄割拠する見えざる組織は、余りにもお粗末な武器しか持つことは出来ない。西欧各国の強力な武器と軍事力に対抗出来るようなものを持てる筈がない。ベトナムの様なゲリラ戦略を行使するような地形的背景も全くない。身をかくすような処は何処にもない砂漠やゴビが広がるだけの地域が殆どなのである。ビン・ラディンが取った戦略の様に、山に穴を掘り、通路を設け、少人数で行動し、訓練し、最後は捨て身の攻撃しかない。アフガンとパキスタン国境の治外法権地区トライバルエリア、あるいはイラン・イラク北部のアゼルバイジャンやアルメニアの国境地帯、トルクメニスタンやタジキスタンの山岳地帯、支援者の多いジャンム・カシミール等で互いに衛星通信を使いながら情報の交換をし、戦略を立てて行く方法しかないのである。マリとアルジェリアの国境地帯も広大なサハラに行く手を阻まれる格好の拠点でもあった。彼らの攻撃パターンはヒットアンドアウエイではない。ヒットアンドデスである。これがテロと言われる所以であろうが余りにも強大な敵に対して取れる戦略はこれしかないのである。スイサイドアタック・・これしかないのである。そしてこれをより後押しするのがイスラームの教義・ジハードと死後の栄誉(ムスリム同胞の為に命を捧げる事によって得られる誉)・なのである。
それぞれの組織はハザラと呼ばれる資金供給システムによって賄われていた。イスラーム圏の中ではこのハザラが資金の流れを支える。潤沢な産油国の地下資金が、必要とする処へ必要なだけ、タイムリーに供給されて来た。しかし今やすやすと国境を越え、次々と連携しながら流れていたその動脈があちこちで寸断されて来た。世界中に広がる反抗組織がその資金供給の根を断たれ、自立して賄わなければならなくなってきた。それが今回の様なアルジェリアの事件を生んだ元なのであると考える。この様な事はこれからも頻繁に起こるだろう。イスラームを理解し、国際的な共鳴の意思として、パレスティナやシリアの解決をより速く促していくような世論が世界中に共有されて行かない限りこれは止むことはない。「ムスリム社会は我々とは違う」とたかを括っている限り、平和共存の道は遠い。武力や金で解決しようとしても決して彼らには通じない。必要なのは常日頃からの理解とダイアローグである。ビジネスでムスリム社会に溶け込もうとするのは最低の事と理解しなければならない。日揮の事件で、彼らが日本人にシーツを被せムスリムを装って庇ってくれたように、日頃の人間関係が成り立つ事こそ最も大切な事なのである。ムスリムの人達は本来日本人を敬愛している。東洋のあんなちっちゃな国が世界に戦いを挑んだとして評価してくれている人もいる。しかしその後必ず「原爆まで落とされながら何故今日本はアメリカの属国なのだ」と付け足される。叉、日本を“エコノミックアニマル”と世界で最低の評価を下したのも彼らである。ムスリム人の本音は、「誰とも親しく、広い知識と教養を持ち、家族を大切にし、日々気高く生きる」。これが彼らの原点なのである。金とか名誉とかと云った人間が作った付加価値は彼らは全く評価しない。心の平安を求める事を至上の事として1日5回のアザーンを欠かさないのが彼らの本質であることを日本人は理解しなければならない。                 2013年3月20日  曽根悟朗